「改革好きな」スペイン政府。禁煙法と性教育改革

今の内閣になってから、スペインは良かれ悪しかれ、立て続けに次々と現状「改革的」な立法を成立させて、それに快からぬ感情を抱く人をいらだたせていると言っても良いでしょう。その中にはいつでもやれたこと、表だって反対することの出来ないことがいろいろとあるようにも思います。その多くが「人権主義」に関わる部分であるともいえるように思います。例えば、もうすぐ迫った1月1日から、スペインも勤務場所及びバールやレストランテなどの接客産業部門でも禁煙法に基づいて禁煙地区と喫煙地域を区別しなければならなくなります。100平米以上のバーは、当面6ヶ月間は表示だけでも良いのですが、恒久的な喫煙場所を建築しなければなりませんし、小さなバールは、喫煙者専用か、禁煙者専用かを選択をしなければなりません。バルセロナの小さなバール業者組合は喫煙者用を選択することになっているそうで、この法律施行と共に禁煙者が増えていく傾向が生まれるでしょうから、長期的には禁煙バーは増えていくことでしょうが、短期的にはさて、この戦略は成功していくでしょうか。大きなバールに客をますます取られていかないようにして欲しいものです。しかし、女性歓迎で禁煙バールが増え、若い男性も同調していくことはここでは期待できそうもないことのように思えます。法律の目的は言うまでもなく、煙草の害から人々の健康を守るため、禁煙を奨励することで、企業の方もこれに伴うコストについて議論をしているようですが、煙草業界は勿論、広告業界も煙草の広告を禁じられるので、不満の声が高いようです。それによって守られる企業の労働者の健康のメリットの企業業績への効果は、企業の側からは余り議論されていないようです。

先日、スペインの若者の間に中絶が多く行われていることが統計的に明らかにされました。2004年の1年間で,85,000人が中絶をしたということですし、ここ10年間で、75%もの増大率を示していると言うことです。此の統計発表は、性教育改革に向けての準備的研究と言うことで発表されたものですが、この基礎研究によると、中絶が増大した理由として次のような分析がなされているようです。
第一に、特に15才から19才までの少女の中絶率の高さが指摘されました。いろいろな原因が考えられていますが、若者達の避妊の失敗という問題もあるようです。19才以下の少女の妊娠者の3/4は自分の意志で性行動をし、中絶している。(そこまで立ち会う男はいない、ということか?)性に関する教育、その情報は非常に増えているにもかかわらず、その性行動の際には、この情報は役立っていない、ということで、性教育のどこかが間違っているのではないか、といわれているようです。
第2に、20〜29才の年齢層では、多くの婦人がその第一子を持つことを延期しているという、全く社会的な要因が指摘されています。不安定雇用と住宅事情の悪さが子供を持つ年齢の遅れの理由だと言うことが明らかにされています。またこの年齢層の中絶の第二の理由は、一人っ子を選択している、それ以上生みたくない、育てることが難しいということだという事実を報告しています。
 ちょっと特殊な理由ですが、移民の増大という要素があるといわれています。移民の多いマドリッドでは、移民の女性はスペイン人の婦人の五倍の中絶率を示しています。前者では、中絶率は34ポール・ミル,(34/1000)に対して、後者は6.8/1000だそうです。移民の女性の場合、自治体などの家族計画サービスにアクセスしにくいし、文化的な態度の点でこのサービスを効果的に利用できないという問題もあるようです。
 第三に、すべての年齢層において増えつつある危険性の高いある種の性行動の傾向です。つまり、性交後にピルを取るという仕方を気軽に行っている傾向だそうです。そしてその結果、簡単に解決策として中絶するという傾向でしょう。中絶は母胎に対しても危険なものだという事実を自覚していないこともこの理由となっているようです。私は、精神的にも女性にとって大きな後遺症を遺すものだということも、日本の水子地蔵や水子のお墓をみると、感じたものでした。ましてや、中絶の失敗によって妊娠できなくなった場合の悲しみの深さは想像するだけで怖ろしくなるほどです。私は読んだことがありませんが、女性の文学にはきっとこうした話があるでしょうね? この方法は、スペインに於けるエイズの高い蔓延率の原因ともなっているものです。バルセロナ市の調査では、過去6ヶ月の間に性交後のピルを飲んだ女性は、18才の女性の15%だったとあります。恥ずかしながら、私は、こうしたピルというものを知りませんし、使ったこともありません。私の時代にはそうしたものは日本では売られていなくて、もっぱらコンドーム+排卵日の計算によっていました。結婚したての頃、薬屋にコンドームを買いに行くのが恥ずかしかったことを思い出します。
教育改革は、現在のスペイン政府が掲げている重要な政策課題ですが、こうした性教育改革問題も、スペインの伝統的な宗教信念と衝突すると言うこともあってか、こうした政策に不快感を示す人がなお、かなりいる理由となっているのかもしれません。日本の長い幾つかの戦時中、日本の代表的産児制限論者だった国会議員が、ファシストによって斬り殺されたことは、私も知らないもう「ずっとずっと昔のこと」でした。何処の国でも、性の「近代化」への道はいろいろと苦難に満ちたものでした。日本の農村の人にまで、産児制限の思想がそれなりに伝わり、またその具体的な方法が伝わっていったのは、日本で言う戦後のこと、「戦後改革」のあとのことだということも、まもなく日本人の記憶の中からも消えてしまうことでしょう。その意味では、日本の現状は、もうとっくにこうした問題を解決している、ないしは超えてしまっていると考えて良いと思いますが、若い皆さんは、どんな性行動を取っていいるのでしょうか? 人間の罪深さは、何時までも変わらないのでしょうか?