アイルランド通信 上野格さんから

パーネル・サマースクールの風景

文赤 千兵衛様
 メールをありがとうございました。日本では殆ど使わないノートパソコンを持ってきていますので、アドレスがはいってなくて、困っていました。w君に問い合わせたのですが、何か失敗したらしく、届かないらしい。メールをいただけて肩の荷が下りました。どうしよう・どうしようと気をもんでいましたから。

 昨晩、ウイックロウというきれいな田舎の森から帰ってきました。アイルランドの「無冠の帝王」といわれるナショナリズム運動のリーダー「H.C.パーネル」を記念して1991年(没後百年)にはじまったパーネル・サマー・スクールというのに参加していました。人里はなれたいいところだけれど、インターネットは使えず、新聞も一時間以上歩かないと入手できない。絶海の孤島に一週間いるのとあまり変わらない。

一週間、パーネルの生れ育ったEstateで暮らし、朝9.30からレクチャーとパネル・ディスカッションなどを楽しみます。最近本を出した人が講師に選ばれますので、議論が新鮮で私には大変有難い。アイリッシュにとってもそうです。90分でひとつ終わるとお茶。そこまで歩く間に、「今のレクチャーはどうだった、お前の仕事には役に立つか」などとひっきりなしに話が続きます。

 日本では男のおしゃべりは軽蔑されるけれど、ここではひっきりなしにしゃべっている。静かなのは講師がしゃべっているときと、寝ているときだけです。食事や酒飲みの時などは、あまりうるさいので、他人の声が聞こえない。だから、相手の話と関係ないことを皆勝手にしゃべっている。聞こえないから、相手がいうと何にでも賛成するけれど、実は反対のことをしゃべっていたりする。

 男でもそうですから、中年女性がいると大変。朝食は大体女性軍と一緒になるのですが(男は酔いつぶれている)、そのかしましいこと。中年のおばさんたちがまるで女子中学生のように大声で話し、笑い、時には気勢をあげます。いつかは、遺産相続の話になって(朝から!)日本ではどうかというので、女房半分、残りは子供が均分相続ときまっている、といったら皆大賛成でした。ここでは、スペインでもそうでしょうが、遺言書が大きな役割を果たすから、女房族には不利なことが良く起こる。誰か知り合いにそういう人がいたのでしょう。小さい国だから、大体誰かが誰jかの親戚で、必ず情報通がいる。国をあげて「村」です。

パーネルで撮った写真を少し送ります。(残念ながら、この写真、fotolifeの容量一杯で遅れませんでした。ー文赤)パーネルは中くらいの地主で、あまり大きな屋敷は持たず、庭園の広さも並だったそうですが、それでも3枚目にあるように芝生がいやになるほど広く、遠くまで開けていて、 ゴルフコースがいくつもできそう。大きな木が数に生えている林がその周りに広がっていて、いつか日本の若い女性とその中を歩いたら、静かなのと、どう歩いてもいつまでも林からでられないので、とうとう怖がって、出たい、出ましょうと言い出した。
 一枚目にある大天幕はmarqueeといわれる大テントです。外からはあまり大きく見えませんが、中には二枚目のようにかなりたくさん入れます。午餐を待つ参加者たちです。日本人のように見える若い女性は台湾人でアメリカの大学を終えて、ダブリン大学で院生をしている。東洋人はこの子と私の二人だけなので、いつも一緒にいて、アイリッシュに「父子か」とからかわれていました。一緒のおじさんは元英国海軍原子力潜水艦の司令官。日本にも、長崎、佐世保、神戸などにきたそうです。毎年会うたびに、「神戸牛は世界一うまい」と懐かしがります。

 つまらない話で長くなりました。テレビのニューズでスペインやポルトガルの山火事を盛んに報道していましたが、今日は見ませんでした。そろそろ終わったのでしょうか。
 奥さんによろしく。またメールします。

 上野 格

 昼間は、2時間を越すランチ(正餐)をはさんで3回、講義とパネルがあり、夜は近くのホテルで8時半から講義、ということになっているのですが、夜はぜんぜん時間を守らない。9時過ぎてようやく皆がホールに集まる。それまでは皆のんでいる。私もそれまでにはギネスなどを2パイントはのんでいて、新しい1パイントを買って講義にでる。一晩はトラディショナル・ミュージックの日で、なんとアカデミック・ディレクターで準備や会期中大忙しの男が(若手でかなり有望な大学の教員ですが)凄くうまく笛を吹いてみせる。
「私も負けずに声張り上げて、歌うよ「庭の千草」を日本語で」と「南国土佐を後にして」みたいにがんばります。このスクールにくるようになって、もう10数年になります。家内がなくなった年の夏から毎年。一昨年には連続十年皆勤で表彰されました。