21世紀の奴隷貿易

El Pais 6月 2日,2005年 のSociety欄に「スペイン国内に於ける奴隷貿易」というルポルタージュが載っていました。日本にもフィリピン、南米コロンビア、エクアドルなどからの女性が、暴力団の組織によって連れてこられ、日本の売春業者やポン引きに売られ、売春を暴力的に強制され、売買された金額を借金として返済するように強制された上、言葉が話せないまま、監禁されている部屋での生活費・部屋代を払わされて、この借金が永遠に返済できないようにしてあるというような話が、 日本の新聞で報道されていたことがありました。これについては、何かの機会に此処で触れたことがあるように記憶しています。スペインでは、少し昔のように、南米から家政婦や掃除夫などの仕事と偽られて連れてこられ、どこの国に着いたのかも分からずに売り飛ばされて、売春宿に詰め込まれたり、路頭を歩くことを強要されるケースだけではなく、最近は、東欧やアフリカからの女性が急激に増えているということです。彼らは、充分実情も知らずに自分から業者に連れてこられて売春するものもいるということですが、非常に多くの部分が暴力的に拐かされて連れてこられ、システマティックに強姦されて売春を強要されるに到るというケースが多くなっているということです。売春婦の数は急激に増えていて、警察によると、昨年は2万人が売春宿で働いていた、とのことです。スペインでは、こうした女性を救い出すためのアソシエーションの活動も、これに応じて目に付くようになってきました。しかし、スペインの売春を調査している社会学者Maria Jose Barahonaによると、約30万人ほどの売春婦がいると概算され、最近の殆どの売春婦が外国人となっているということです。警察の報告書によっても、多くはルーマニアやナイジェリア等から連れてこられて、1人3000ユーロで売り飛ばされるという奴隷貿易の形態をとっていることが最近の特色だということです。
マドリッドのCasa de Campo 公園はスペインの最大の野外売春地区で、毎日24時間休み無く働いている、ということです。冬零度以下だったり、夏35度以上だったりする日は、木陰に入っているそうですが、此処には1000人ほどの売春婦が働いているといわれています。最近は警察が目を光らしているので, 一晩で200-300人程度が野外にいるということです。 Casa de Campoでは、1人のマフィアのポン引きが持っている女性が10人程度、1人が20ユーロで一晩10人の客を取らされるのが通常だそうですから、1日の稼ぎは2000ユーロとなる勘定です。
この2ページに及ぶルポルタージュは、最後にこういっています。「この21世紀に成って、人間が拐かされ、競りにかけられ、そして売られて、毎日の労働をしいられ、その人生を破滅させるということがあるとは信じがたいことだ。」そして、その唯一の有効な防御策は、買春と売春を重犯罪として、法的に処罰することだ、と述べています。
この記事を読んで、正直に言って、サラマンカに住んでいて、1カ所だけそれらしい宿を知っているのですが、毎日日曜を含んで、朝早くから夜遅くまで、路上で客を拾っているらしき中高年女性(売春そのものを本人がするとは思えない人たち)が働いているのを目撃するだけで、スペインでは異例の長時間、年間通して働いている人たちだと、「感心?」せざるを得ない感じで、見ていました。こんな長時間労働するところは、スペインにはあり得ないことですので、長時間労働は搾取システムの例外的におそろしいところで最も厳しいのか、と秘かに思ったりしていたところです。こうした場所で若い女性を目にしたことがないので、カトリックの国ではさすがに現代ではどこでもここでも売春行為が見られるということはないのか?と感心もしていたのでしたが、この記事を見て「やっぱり---」という感じです。
これは、売春婦個人の動機からすると、移民の1形態だということも注意しておきたいところです。日本では、昭和になっても農村から都市に売春婦として売る習慣があり、家族の犠牲になって苦界に身を沈めることを親孝行の鑑として賞賛したものでした。また、台湾や朝鮮を植民地としたとき、先ず移動していった人たちには警官と、女性では売春婦が多く、植民地経営に関わる日本人の権威を非常に低いものにしたことは多くの歴史研究者の知るところですね。そういえばそうだった、と植民地生まれの私なども経験上納得してしまいます。いずれも、「内地」で食い詰めた人たちが、一旗揚げることを目指し、警官になるか、売春宿を経営するかということだった、といって良いでしょう。
スペインでも現在までに、不法移民=移住を認められていない沢山の外国人労働者が、不法に雇用を求めて渡来したまま、秘かに雇用されていました。比較にならない低賃金でもこれらの人たちは本国で働くより、家族を養ったりすることが出来るからです。勿論、これによって移民を雇う本国の雇用が奪われるという問題はあるでしょう。資本が外国に移動して、そこで低賃金労働を雇用する方が、国内の雇用が同じように失われても、雇用の外国人低賃金労働への置き換えがみえないまま、国内労働者との摩擦が少ないかもしれませんが、中小企業がまだ多い国の場合は、より一層の産業化、資本蓄積が必要である段階では、「中流化」の傾向は、中小企業産業部門のコスト高インフレを助長して行くことになり、それだけ、例えば、中国などとの価格競争力を失い、不法移民労働の一時雇用をする方向に踏み切らざるを得ないし、移民達に対する人権問題に目をふさいでいくことになる傾向があるのではないでしょうか。農・漁業のように国内から移動することがない産業部門の場合や、ホテル・食堂など国内サービス産業も、移民労働をを多く使ってきました。現在多く見られるようになった極右化には、人種差別主義者への支持の増大、自分の利害や考えの主張のためには他国への軍事攻撃のような国家暴力、集団暴力のような人権無視をも辞せずという主張を持つリーダーや集団を支持したりすることが挙げられるでしょう。極右化はいつも人種差別や、不当な自己の人種的優越感の誇示と結びついているようですが、こうした自由市場システムでは出口を見いだせない雇用と「一般的生活向上=中流化」の要求を、外国人移民に対する憎しみに振り替えて、移民を排除すればことが解決するかのように、抑圧された感情を吐き出させ、自己への支持を調達しようとするポプリストたちを支持する傾向といったほうがより正確でしょうか。
一般に、それまでの都市と農村の間に極端な労働力単価格差=生活格差があるような段階から、ある国が産業化を急激に推し進めることが出来る段階にはいり、都市的な産業の高度成長が進行していく段階にはいると、不足する低賃金労働者を求める都市産業に向かって、賃金仕事を求める多くの人が、農村から都市に移動していき、やがて都市と農村の格差が無くなり、みんな都市的な似たような生活が出来るようになっていくということが生活様式の「都市化」と呼ばれたことは日本の人たちは誰でも経験上知っていることですね。 労働市場のGlobalizationは、こうしたことが地球規模で行われるようになった段階に他なりません。それによって、高度に産業化した国も豊かさを維持しようとしているわけですし、貧しい国の人たちは、機会を掴む可能性が出てきているわけです。そういうことだとすると、貧しい国に産業化が生じ、「中流化」の動向が生まれ、それを市場として発達させて行くことに地球規模で先進産業社会は密接にかかわっていくという近代までには見られない時代にはいることが出来るのだろうと思います。従って、マクロには決して悲観すべきことだけではないのですが、しかし、そういう方向へ世界は進めるかどうかは楽観を許さないでしょう。この新しい段階に入って、問題はいろいろありますが、その解決はいずれも地球的世界社会のありかたや、社会体制全体に関わる超マクロな視点から考えなければならない問題になってきました。各制度のすべての関連を政策的に操作できなければならず、すぐに短期的な解決がみえない。超大国の独善的行動と交渉を通して関わっていかなければならない。そうしたシステム問題、世界社会問題に、集団・組織も人々も、日常的に疲弊感を感じ、不安におびえるようになってきた。問題はこうした点から、多くの人が心理的に行き詰まってきたように思うのです。
Hatenaのみなさんの日記を見ますと、中には信じられないような粗野な言葉を使ったり、根拠を何らしめさないような主張や、磨こうともしない感情吐露を綴っている方々が、相互に「はまった」ネットワークを楽しんでおられるのに出逢うことがあります。役に立つ情報を検索できるという本来うたわれているものとして利用価値が高いということもさることながら、もしかしたら、多くの人にとって、そうした閉塞感を発散させる場所として、Hatenaのようなweblogがあるのかもしれません。私も、時に閉塞感に悩まされています。少数派であることに疲れたりします。しかし、また、誰かがこれを読んでいてくれるはずだと思いつつ、今のところ立ち直ったりしていますが、----。
また、毎日を力を尽くして生きたいと思っています。出来るだけ多くのみなさん、読んで下さい。