サラマンカの黒豚。

Sbunaka2005-04-15

salamancaの田舎の農家が飼っている黒豚の写真をお見せしましょう。前日の記事でこちらの農業と食生活は、放牧している豚を中心に成り立っていることを書きました。これはまだ春の豚で、ご覧のようにやせ細っています。秋、放牧された荒野の樫の木のドングリを食べて見違えるほど大きく、丸まると肥るのです。日本人は草食動物の食文化ですが、サラマンカは豚を食べる肉食動物の食の異文化だということ、それは戦後、輸入肉を食べるようになり、一般に牛丼とかスキヤキを一つの料理として、日常的に食べるようになった日本食文化の中の肉食とは異なっていることをお伝えしたかったのでもありますが、丁度日本の農村の風景が田圃であるとすると、こちらサラマンカの田園風景は、石ころだらけの荒野に樫の木が林を作り、そこにこの豚たちが暮らしているという風景なのです。私もスペインの生ハムが日本のデパートで売られているのは知っています。それを食べれば「スペインの生ハム」を食べたことになるのでしょうか?。それでも勿論、別に問題はないのですが---。
 このインターネットでも、「スペイン料理」の楽しいレシピや写真を一生懸命書いておられる人がいます。なるほど、日本の家庭でも作れる「スペイン料理」を創り出そうと努力されていることに敬服いたしますが、ふと、疑問も起こります。「一体何処がスペイン料理だと言うことになるのでしょうか?」オリーブ油を基本的に使えば、スペイン料理なのでしょうか?工夫すればするほど、「スペイン料理」とは何か、疑問になってくるのはやむを得ないかもしれませんが、まずしっかりとその食文化の全体が分かるような把握があって、それをしっかりと抑えた紹介を、食文化の専門家にしていただきたいものと思ったりします。外国で見る沢山の日本料理店は、私どもが日本食と呼びたくないものの方が多い、というのも、同じ事のように思います。そういうことを承知しておけば、それはそれで結構なことで文句はありません。
しかし、こうした現象は、スペイン自体にも、勿論起こっています。ここサラマンカ世界遺産都市として、観光客が大勢来ていますが、その本屋の店頭にうずたかく積んである目玉商品の本の中に、「スペイン料理タパス100選」というのがありました。タパスというのは、バールとよばれるスペイン独自のパブのようなものですが、そこに並べられているつまみ料理といってよいもので、バールによって独自性が工夫され、しかしスペインの各地方の古典的料理の特徴が非常にはっきりと見られる料理だと思ってください。ですから、観光客にとっては、先ず、タパスこそ、スペイン料理を知る近道だと思っているといっても良いでしょう。「どんなタパスがあるのだろう?」「どうやって料理すればよいのだろう?」という興味は、とりわけ外国人の私たちには大きな関心の的となっています。よく売れているのだと思いますが、スペイン語版と英語版の2種があって、100点のいずれも美しい写真入りで、高級感一杯のものが並んでいました。私も勿論早速店頭で覗いてみました。しかし、重大な問題がそこにはありました。実際私が見たことのある各地の地方色豊かなタパスは、一つも発見できなかったことです。多分、この著者や出版社は、現実の伝統料理は美しくなく、田舎臭いと思ったのではないでしょうか? もっと「モダン」で、代表的な「スペイン料理」にしなければ、といろいろ企画を練った結果でしょう。
 実際、各国民共に、インスタント食品や保存食品世界企業の食品を摂るようになって、食のglobalizationが進み、「エスニック」とか、世界各地の名前を冠した同じようなものをたべるようになってきましたね。しかし、それは大きな食文化の変化であることを知っておくのも役に立つことでしょう。それは歓迎すべき変化だ、という評価もあるいは可能でしょう。私は随分沢山の国を旅行しましたが、余り金持ちではありませんので、その国の、毎日毎日同じようなものを食べている大衆料理しか食べたことはありません。しかし、何処の国に行っても、私はその食事だけを食べて満足できます。むしろ、非常に満足しています。しかし、年を取ると、多分、価値観を変えることが難しいからなのでしょうか、伝統料理がどこに行ってもなくなっていくという傾向、そういう変化になかなか適応できません。
「昔はメシがうまかった!!匂いも良かった。料理したてで新鮮だったよなあ!!第一、原料から一つ一つ全部手で作っていたものなあ!!」なんて言うのは爺の嫌みでしょうか?
これは日本を留守にして、数年たって日本に帰って感ずる驚きの一つです。例えば、
日本に帰ってよく飲まれている缶ビールを飲んだときの驚きは、皆様には想像できるでしょうか? 「これはビールではない!!!」というのが実感でした。誇りにしていたみんな飲んでた日本のビールはどこに行ったのでしょう? 職人芸の寿司屋さんは、大衆的な店を探してももう見つかりません。帰ってきた日に1回だけ、2人で1万円札(約70ユーロ)はたいて空港の寿司やで食べます。2人で70ユーロの高級レストランのコース並料金ですが、赤出汁と寿司の上を、冷酒一本を飲んで食べて、日本に帰ってきたことを実感します。しかし、同時に、もっと伝統的大衆的日本食を大事に出来ないものかなーと、つい欲が出ます。