スペイン料理 練りじゃが パタタス・メネアス

練りじゃがいも。Patatas maneas

材料
ジャガイモ  ベーコン
クミン ピメントン ローレル  
ニンニク 玉葱

作り方

ジャガイモを薄く輪切りにして、深鍋にジャガイモと水少々を入れて、香料として、玉葱、ローレル、クミンとニンニクを乳鉢でつぶしたもの、塩を入れて煮ます。

 他方で、フライパンなどで脂身のベーコンを熱し、ラードが全部溶けだしたら、カリカリになった滓を取り出し捨てます。この油の中に赤い色が付くようにピメントンを入れます。

それから、先ほどのジャガイモを煮ている鍋から、玉葱のかけら、ローレルを取り出し捨てて、残ったジャガイモに先程の油を全部を注ぎ入れます。そして、ジャガイモの原形がなくなるまでかき回します。マッシュポテトよりやや緩い感じのものが出来上がります。これで完成です。

{私の味見所見}
この料理は冬に作って食べるものだそうです。簡単な料理で、誰でもすぐ作ることが出来ます。寒い野良仕事から帰って、火にかけて煮たジャガイモにベーコンの油をたっぷり混ぜて熱々を食べるのだそうで、体がすぐ温まる、ということでした。
 マッシュポテトをベーコンの油で練っただけの料理で、私にはどう考えても貧しい人たちの料理のように思えました。今頃、こうした食べ物を食べる人はいるのだろうか、と疑問に思いました。しかし、冬のサラマンカのバーでは、今でも、先に紹介した臓物のシチュー、チャンファイナと共に、ごく当たり前の、最もサラマンカらしい名物ピンチョとして出されていると言うことでした。「うまい、うまいよ」と50代の、典型的「中の中」生活階層のおじさんとおぼしき人がそう答えてくれました。伝統料理には、貴族や領主層、ドンキホーテのような「郷士」達の食べ物、百姓達の食べ物、商人達の食べ物というように階層、身分、職業によって伝統料理が違っていたでしょう。日本の伝統料理には、大名料理や宮廷料理など、最高級の趣味と言うべき料理法もあるわけですが、お寺の料理、百姓や漁師の料理、町人の料理と、また地方によっても特色のある庶民の伝統料理もあるわけです。どちらが大事な伝統かと言うことは出来ないでしょうが、私たちが毎日作っている料理の基盤は明らかにこのような庶民の伝統料理にあると思います。このジャガイモの素朴な料理は、疑いもなくカンペシーノ達、つまり百姓の料理です。そして、今でもみんなが馴染んで喜んでいる料理なのだと言うことを知ることは非常に興味あることのように思います。昨日、用件があって、マドリッドに行きましたが、ついでに小さな美術館のムセオ・ソロージャに言ってきました。20世紀初頭のスペインの画家、ホアキン・ソロジャ・バスティダの自宅をその幾つかの画業と共に美術館にしたものですが、日常的な生活の中にあるくり返されて行われている生活の場面を描いている画家、costumbrismoの画家として、スペイン人に大いに愛されている画家です。いってみれば、料理法の方から料理を見る時、確実にcostumbrismo生活慣習までが想像されますが、味の方からだけでは、私にはなかなか食生活から社会生活までのcostumbrismoを想像できないので、毎日の食べたものをお書きになる方の生活については、例えば、多分独身の方なのだろうな---等と想像するだけしかできません。
 先頃、毎日の食について大変多くの人がwebの日記を書いていることに気が付きました。しかしまた、その殆どが消費の視点からだけ関心を持っていることにも気が付きました。何を食べたか、それはうまかったか云々、というわけです。私は、年をとったということも大いにありますが、別な動機から、作る視点から食を見る事になりました。例えば、この「練りじゃが」ですが、バーで食べたら、ただの料理としか思いませんから、旨いかどうかしか関心を持たないでしょうし、これ以上ない単純な料理として何の注目をしないまま、忘れてしまうことでしょう。しかし、作ってみると、こんな料理を伝統的に食べてきた生活風景というのを、つい想像せざるを得ないことになります。日本に帰ったら、食については「伝統料理法」の本を学んで見たいという気持ちが生まれてきました。